独自のスタイルを貫きつつ、オマージュを込めるビリーの妙技
第96回アカデミー賞レッドカーペットは、個性派ぞろいの中でも、ビリー・アイリッシュの存在感は際立っていました。自身も過去にアカデミー賞を受賞し、今回ノミネートされている楽曲「What Was I Made For?」は、映画「バービー」のサントラからの1曲。そんな彼女が、レッドカーペットで披露したのは、誰もが予想しなかった、等身大のバービーを彷彿させる装いでした。
ビリーらしいのは、決して着飾ることのない、ストリートカルチャーをベースにしたスタイル。しかし今回、彼女はシャネルのツイード素材のスーツとバッグで、ラグジュアリーブランドへの敬意を表しながらも、バービーへのオマージュをさりげなくちりばめていました。足元にはあえての白ソックスとローファーを合わせ、映画で主演を務めたMargot Robbie(マーゴット・ロビー)が過去1年間、様々なバービーファッションを披露してきた中で、誰もがイメージする「バービー」を彷彿させるディテールを取り入れたのです。
映画「バービー」がもたらしたファッション・インパクト
映画「バービー」がアカデミー賞でノミネートされたことは、カルチャー現象となったこの作品にとって、まさにふさわしい栄誉と言えるでしょう。マテルの象徴的な人形に新たな息吹を吹き込んだこの作品は、1年間を通して話題をさらいました。しかし、皮肉にも同時期に公開されたクリストファー・ノーラン監督の「オppenheimer(オッペンハイマー)」もアカデミー賞受賞候補となり、興行収入10億ドルを突破するなど、大きな話題を呼んだことも忘れてはなりません。
しかし、グレタ・ガーウィグ監督が手掛けた、このピンク一色のスペクタクル映画が、世界中のレッドカーペットにもたらしたファッションインパクトは否定できません。主演のMargot Robbie(マーゴット・ロビー)をはじめとするキャストたちは、様々な時代のバービー人形やコレクターズアイテムの衣装をリファレンスし、世界中のトップメゾンとコラボレーションして、バービーの華やかさを現代的に表現したドレスを纏ってきました。例えば、Margot Robbie(マーゴット・ロビー)は昨年の「バービー」のプレミアで、レアなバービー人形を彷彿させるマーメイドラインのスカイアパレリを着ており、一方で2024年のオーストラリア映画批評家協会賞 (AACTA) では、ヴィヴィアン・ウエストウッドのシルバーのドレスで、さりげなくピンクを取り入れるなど、必ずしも「バービー」を直球勝負するわけではありませんでした。
ビリー流のバービー解釈:ストリートとラグジュアリーの融合
普段から流動的で独自のスタイルを貫くビリーですが、今回のようにさりげなくバービーを彷彿させるファッションを見せることもできます。これは、彼女が2度目のシャネルでのオスカーレッドカーペット登場でもあります。2020年には、シャネルの定番であるツイード素材のオーバーサイズの白シャツとパンツに、ブランドロゴの刺繍が入ったものを着用しました。ビリーは、アイコニックなオートクチュールメゾンのコードや要素を取り入れつつ、自分らしく消化させてしまうのが巧みです。